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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

お尻に注射

                ≪八月二十四日≫      -爾-




  車から降りると、クリスチャン・ホスピタルはすぐ目の前だっ

た。


 病院に入り、受付のナース(おばさん)に薬の名前(ガンマー・グラ

ブリー)と書いた紙切れを見せたり、注射の真似をするとやっと理解できた

のか、手続きをする事ができた。



  これが又厄介で、暇そうな看護婦を見つけては、何処をどう書

くのか聞きながら、やっとこさで手続きを済ませることに成功する。


    ナース「二階へ行きなさい!」


 我々は看護婦に言われるまま、二階に上がり病院の中を歩き回る。



  中央に狭い廊下が続いていて、その両側に病室がある大きな病

院だ。


 待合室は廊下の両サイドに長椅子が置かれていて、廊下が待合室を兼

ねているようだ。


 長椅子には、地元の人たちが座っていて、なんかおかしな野郎たちが

来たというような顔をして、俺達を見ている。



  そんな目に晒されながら、廊下を突き進んで、看護婦に言われ

た診察室の前で待つことにした。


 服装や身のこなしで、日本人と分かっている様で、奇異の目で睨み付

けて来る。


 注射と言うものは、小さい時から嫌なものである。


 病院で診察を受けるなんて、もう何年ぶりだろうか。


 何か、病院特有の変な匂いと、暗い雰囲気があたりを漂わせている。



    鉄臣「注射、嫌やな~~~!」


      俺 「相当痛いらしいで!」


      鉄臣「そんなん・・・おどかしやな!」



  白衣を着た看護婦が、我々の目の前を歩き回っている。


 その中のインターンらしき女の子が、黒いスカートに白いシャツ姿

で、我々の方へ歩み寄ってきた。


 彼女に指示されて一人づつ、208号室とその隣の部屋へ導かれてい

く。


 どうやら、彼女が我々の担当のようだ。



  最後に俺の番が来た。


    インターン「ミスター、ヨシヒコ・ヒガシカワ!」


 彼女の俺を呼ぶ声にしたがって、208号室へ入っていく。


 診察室の中は思ったより広く、カーテンに隠された診察台が二つ、テ

ーブルが二つ配置されている。



  横には、白衣を着た看護婦(おばさん)が一人机に向かって、

なにやら書類に目を通している野が見えた。


 名前とか、いろんなチェックを受けて、彼女に連れられて隣の部屋に

入る。


 中には体重計が置かれていた。


    インターン「体重を量りますから、そこに載って下さい!」


 それが何を意味するのか全くわからなかったが、後で聞いた所による

と、体重によって注射する液の量が違ってくるという事だった。



    俺    「服は脱ぐの?」


      インターン「NO!」


 インターンは慌てて手を振った。


 体重計に載る。


 60.5Kg。


 服を脱ぐと、60.0Kgを切っているかも知れない。


 随分と痩せたもんだ。



  60.5Kgの俺は、ガンマー・グラブリーを6.00ccを注射

することになったらしい。


 仲間全員の体重が計量されると、彼女に連れられていったん受付に戻

り、まず料金の支払いを済ませるよう言われる。


    俺 「いくら?」


    受付「2.00ccで84バーツ(1260円)」


    俺 「6.00ccという事は、252バーツ(3780

         円)!!えらい高いなー!」


    新保「俺なんか、8.00ccやで!」


    鉄臣「俺もや!」


    政雄「体重の重いもんは、注射二本打つらしいで!」


    鉄臣「二本もかいな!」



  料金を支払うと、渡されたカードを持って、元の二階の待合室

で待たされることのなった。


 大の大人四人が、まだ見ぬ注射におびえているのである。



  診察室の中からインターンの彼女が姿を見せた。


    彼女「ミスター・ヒガシカワ!」


 なんと、一番最初に呼ばれてしまった。


    俺 「なんや、俺が最初かいな!」


    鉄臣「どんなんか・・教えてね。」


    俺 「そら・・・痛いにきまっとんやんか!」



  覚悟を決めて、208号室に入っていくと、さっきのおばはん

が(ナース)ニコニコしながら言った。


    ナース「診察台に上がって!」


 注射と言うものは、普通腕にするもので・・・・診察台に座るんかい

な。


 言われた通り、診察台に仰向けになって寝転ぶと、腕をまくって見せ

た。


    ナース「NO!」
 なにやら、言っている。


    俺  「ええ????お尻に注射するの??」


 少々驚きをもった顔で叫ぶと、若いインターンが笑っているではない

か。


    俺  「しょうがないなー!」


 覚悟を決めて、ズボンに手をかけた。


    俺  「あっち向いてろ!」


 インターンに向かって合図を送ると、笑っていた彼女も恥ずかしそう

に背中を見せた。



  ナースはそんな事もかまわず、俺のズボンに手をかけると、思

いっきり下へ下げると同時に左の尻に太い注射針を思いっきり差し込んだ。


    俺  「痛て-!!」


    ナース「力を抜いて!」
 痛みで筋肉が硬直すると良くな

いらしい。


 俺の左の尻を抑えながら、6.00ccもの液体を俺の体内に注入して

いった。


    ナース「ホラ、終ったよ!」


 強烈な痛みに、診察台から起き上がろうとして、腰がくだけてしまっ

た。


    俺  「痛て~~~~~!」


 インターンが笑ってる。


    俺  「何がおかしいの。」



  (>_<)をしかめていると、二人はニコニコして見ている。


 診察台から下りた時から、ビッコをひきながらでしか歩けない。


 みんなの待つ待合室へ出て行く格好といったら、何とも情けないもの

であった。


 皆が笑っている。


 地元の人たちにも笑顔が・・・・。



    鉄臣「ええ??そんなに痛いの!まじ!」


 政雄が呼ばれた。


 次々と診察室に呼ばれていく。



    新保「俺、二本打たれたよ。」


      俺 「同じところへか?」


      新保「いやー!一本終ったからもう良いですかって聞いた

           ら、ノー!ノー!なんて言いやがって、今度は右の

           尻にブスッ!って、ナースもブスだけどさ。痛いの

           なんのって!」


      俺 「両方じゃあ、ビッコひくわけにもいかねーな!」



  とうとう、泣くに泣けない、笑うに笑えない、予防注射の幕と

なってしまいました。


      鉄臣「尻にするんだったら、こんなに痛いんだったら、肝

           炎にやられた方がましよ!」


 喚きながら、待合室となっている暗い廊下を、お尻に手を当ててビッ

コを引きながら歩く日本人四人の情けない姿を見て、待合室の人たちが笑い

をかみ殺しているのがわかる。


 ここが暗い病院だと言う事を忘れさせてくれる笑いが起こっている。



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